非常に時間がかかりましたが、『世界標準の経営理論(入山章栄著)』を読み終えました。
入山氏の著作は、経営理論を実用面で応用できるよう、わかりやすくかみ砕いて説明してくれるため、頭に入りやすく、これまでの著作もすべて持っています。
今回の本は、これまでとは違います。
内容的にも分厚さからしても「経営学の辞書」とでも言うべき大作です。
質・量ともに非常に読み応えがあります。
読み始めるまでは分厚さに躊躇するかもしれませんが、読めば必ず身になります。
経営学を学ぶビジネスマン、学生にとって、この本はかなりのおススメです。
オススメ度 9/10
本の内容
この本では、経営学を大きく3つに分けて、各分野の理論を解説しています。
なぜ3つの分野に分かれているのかというと、経営学には経営学発祥の理論はなく、各分野の派生の形として経営学でそれぞれの理論が活用されているからです。
- 経済学ディシプリン
- 心理学ディシプリン
- 社会学ディシプリン
筆者は経営学がビジネスマンなどに必要な理由として、3つの理由を述べています。
理由1:Whyの「説明」「納得」がなければ、人は動かないから
理由2:「理由ドリブンの思考」の方が、圧倒的に汎用性が高いから
理由3:経営理論の説明力は、時代を超えて不変だから
書籍PP13-14
ビジネスマンが経営学の力を付けることによって、これまでの経験などで何とはなしに身についていた考えの補強をしてくれます。
また、新たな課題に取り組む際に必要な思考の軸として、これまでの経営学の英知の結集が役立つのです。
経済学ディシプリンについて
経済学ディシプリンでは、(ある程度は)人間が合理的であることを基礎にした理論構成となっています。
経営学の教科書で必ず出てくるポーターのSCP理論、バーニーのRBVなどが経済学ディシプリンの理論。
また、モラルハザードを考える情報の経済学、取引費用理論、ゲーム理論などもこの範疇です。
心理学ディシプリンについて
心理学ディシプリンでは、人間は必ずしも合理的な行動を取らないことを前提にしています。
心理学ディシプリンはさらに、マクロ心理学(組織)とミクロ心理学(リーダシップ、モチベーション)に分けて解説しています。
マクロ心理学について
筆者が前著などでも詳しく説明している、知の探索・知の深化の理論では、日本の企業はコンピテンシー・トラップに陥っている可能性があると指摘。
コンピテンシー・トラップは、知の探索が怠りがちになり、知の深化に傾斜する傾向があることを言います。
他には、野中郁次郎のSECIモデルなどが説明されています。
ミクロ心理学について
ミクロ心理学では、リーダシップやモチベーションをどう扱うか理論が語られています。
最近では、人間の感情も大事だということで、各人の感情をベースにした理論も出てきています。
社会学ディシプリン
社会学ディシプリンは、社会関係性をベースにした理論構成。
「弱い繋がりの強さ」理論、ソーシャルキャピタル理論、生態学をベースにした組織エコロジー理論など人間社会の現象を科学的に実証しようと理論構成がなされています。
この本の特徴について
経営学に関しては、形式だった教科書がなく、各理論をかいつまみながら勉強していくことが多いです。
しかし、この本は3つの分野に分けて各理論の学術論文を筆者がかみ砕き、図式化して説明が行われるため、僕のような初心者であってもしっかりと腹落ちします。
もちろん知識をすでに得ている方にとっては、より深い学びができるでしょう。
経営学は発展途中の学問であり、さまざまな学者が試行錯誤しながら企業・組織・労働者の現象の説明を試みている分野であることが認識できました。
また、1つの現象にも2つの別の面から捉えることもできるのであり、仮に1つの理論ではAだと説明できる場合でも、違う理論を用いればBという結果になることも十分にあり得るものです。
このようにさまざまな理論を把握しておくことによって、自分自身の物事の捉え方に幅が広がるような感覚を得られました。
軸があるからこそ、人はそれを基準に思考を飛躍させ、自分が今まで思いつかなかったようなことも考えられる。
本書P.795
まさに本書を読む目的はこれだと思います。
いきなりこの本からは・・・という方はこちら
基本的な経営学の全体像は、同じ著者のこの本でも解説されています。
「世界標準の経営理論」は800ページ超えの超大作のため、まずはさくっと読める本から入りたいという方も多くいらっしゃるはずです。
まずは、この本を読んでから「世界標準の経営理論」に入った方が、理解が捗ると思います。
また、経営学の名著を軽くおさらいしたい場合には、こちらもおすすめです。
Kindle Unlimitedにも入っていますので、気軽に読むことができます。
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